大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

前橋地方裁判所 昭和43年(ワ)75号 判決 1970年9月30日

原告

吉井友治

ほか一名

被告

伊勢崎市

主文

被告は、原告吉井友治に対し金六三万円、原告吉井まきに対し金六三万円および右金員に対する昭和四二年六月二八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを五分し、その四を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告ら

「被告は、原告両名に対し、各金三一五万六、九九四円およびこれに対する昭和四二年六月二七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決

二、被告

「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」

旨の判決

第二、原告らの請求原因

一、原告らの長男訴外吉井一雄は、昭和四二年六月二七日午後一〇時五分ころ、伊勢崎市今泉町六六番地先道路(アスフアルト舗装)(以下「本件道路」という。)を自動二輪車を運転して、同市上泉町方面から美茂呂町方面に向けて時速約五〇キロメートルの速度で南進中、同所にあつた直径約六〇センチメートル、高さ約一〇センチメートルに盛り上つていた土砂のかたまりに乗り上げたため、操縦の自由を失い、路上に転倒して脳挫傷、頭蓋底骨折の傷害を負い、よつて、翌同月二八日午前九時四〇分同市大手町一八番一〇号伊勢崎福島病院において死亡するに至つた。

二、本件道路は被告の管理する市道であるが、被告はかねてよりその西側に接する土地の水源地工事のため、貨物自動車によつて土砂の運搬をしていたが、これが運搬の途中に土砂がこぼれ落ち、すでに同月上旬ころから前記のような土砂のかたまりが出来ていたものであつて、本件道路の管理者たる被告としては早急にこれを除去する等して一般交通に危険を及さないよう道路を管理しなければならないのに、なんらその措置をとらなかつたため前記のような転倒事故(以下、「本件事故」という。)が発生したものであつて、本件事故による前記訴外人の死亡は被告の道路管理の瑕疵に基くものであるから、被告は、国家賠償法第二条第一項の規定により、原告らに対し、後記各損害を賠償する義務がある。

三、とろこで、本件事故による、前記訴外人の受けた損害と原告らのこれが損害賠償請求権相続の関係および原告らの受けた損害は次のとおりである。

(一)  右訴外人の受けた損害と原告らの相続

1 右訴外人の受けた損害(逸失利益)

右訴外人は、死亡当時二〇才七か月の男子であつて、関東ユアサ電池販売株式会社伊勢崎支店の従業員として勤務し、給料、賞与を合わせて年間金三八万一、六〇〇円の収入を得ていたものであり、生活費はその五〇パーセントに当る金一九万八〇〇円と推定されるから、右訴外人の年間純利益は金一九万八〇〇円であるところ、昭和四〇年簡易生命表によればその平均余命は五〇・一一年であり、右訴外人は少くとも、そのうち、六三才まで四三年間は就労可能であつたというべきであるから、その得べかりし利益をホフマン式計算法により算出すると、計数上金四三一万三、九八八円となるのであつて、結局、右訴外人は本件事故による死亡によつてこれを喪失し、右同額の損害を受けた。

2 原告らの相続

原告らは右訴外人の両親として、同訴外人が被告に対して取得した前記1記載の金四三一万三、九八八円の損害賠償請求権を共同して相続したものであるから、それぞれ相続分に応じてその二分の一あての債権(各金二一五万六、九九四円)を取得した。

(二)  原告らの受けた損害(慰藉料)

右訴外人は原告らの長男であり、昭和三八年三月中学校を卒業後直ちに前記会社に入社し、かたわら群馬県立佐波農業高等学校定時制に通学して学業に励んでいたものであり、原告の子らのうち唯一の男子でもあつたことから将来は原告らの老後の面倒をみてくれることとなつていたところ、原告らは本件事故によつて右訴外人を失つたものであり、したがつて、原告らの精神的苦痛は大きく、これが苦痛に対する慰藉料としては原告らそれぞれ金一〇〇万円をもつて相当とする。

四、よつて、原告らは、それぞれ被告に対し、本件事故による損害賠償金として各金三一五万六、九九四円およびこれに対する本件事故発生の日である昭和四二年六月二七日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三、請求原因に対する被告の答弁

一、請求原因第一項の事実のうち、原告らの長男訴外吉井一雄が原告ら主張の日時ころ、本件道路を自動二輪車を運転して、その主張のような方向に進行中であつたこと、本件道路上に直径約六〇センチメートルの土砂のかたまりがあつたこと、右訴外人が右自動二輪車の進行中の事故により原告ら主張の日時・場所において死亡したことは認める。右第一項のその余の事実のうち、原告ら主張の土砂のかたまりの高さは否認する。右訴外人が右土砂のかたまりに乗り上げたため操縦の自由を失つて路上に転倒したこと、右訴外人が原告ら主張のような傷害を負つたことはいずれも知らない。右土砂のかたまりの高さは約五センチメートルであつた。

二、請求原因第二項の事実のうち、本件道路が被告の管理する市道であつたことは認めるがその余の事実は知らない。

本件事故発生の原因は、すべて前記訴外人の過失に基くものであり、被告の道路管理の瑕疵に基くものではない。

すなわち、かりに本件事故が前記土砂のかたまりに右訴外人の運転する自動二輪車が乗り上げたため発生したとしても、右土砂のかたまりは高さ約五センチメートルのものが直径約六〇センチメートルの広さにわたつてほぼ円形になつていたものであり、自動二輪車を通常に運転していればこれに乗り上げてもなんらその走行には影響がない。これに乗り上げて本件事故が発生したとすれば、それはすべて右訴外人の次のような無謀運転等の原因があつたからに他ならない。

(1)  本件道路付近は右訴外人の当時の進行方向に向けて上り坂となつており、本件事故現場はその頂上付近にあたるのであつて、道路交通法による追越禁止区域であるのに、右訴外人は前方を走行していた原動機付自転車を追い越し、道路の向つて右側(西側)部分を走行していた。

(2)  本件道路は群馬県公安委員会により最高速度時速四〇キロメートルと指定された区域であるが、右訴外人は通常定時制高等学校に通学するため本件道路を自動二輪車で走行していたものであるから、原告らが主張するように、昭和四二年六月上旬ころからその主張するような土砂のかたまりが本件道路上にあつたとするならば、当然その存在を知つていたものと考えられるのに、あえて前記指定最高速度の制限を超えた速度(原告らの主張する時速五〇キロメートルでも右制限を超えている)で自動二輪車を走行させていたものであり、かかる運転は暴走というほかはない。

(3)  本件事故当時、本件道路付近の外灯は故障していたものの、当夜の天候状況はうす曇りであつて視界もさほど悪くなく注意をすれば土砂のかたまりを発見出来ないことはなかつたものであり、右訴外人は前方を注視することなく自動二輪車を走行させていた。

(4)  右訴外人の運転していた自動二輪車は、以前は普通のハンドルであつたものを、右訴外人において本件事故の数日前いわゆる一文字ハンドルと称する短いハンドルにつけかえたものであるが、通常短いハンドルは競走用に取りつけられるものであつて、これにより運転者の姿勢が極端に前傾して低くなり空気の抵抗が減じるため、高速度が出しゃすく、その反面平衡がくずれやすいため普通の道路上の走行では危険度が大きい。

(5)  右訴外人は自動二輪車を前記土砂のかたまりに乗り上げてからも自力で約二三・六メートル走行しているのであり、したがつて、右乗り上げ自体が本件事故の原因となつたものではなく、その走行自体が無謀であつたことがその原因をなしたものである。

三、請求原因第三項の事実のうち、右訴外人の死亡当時の年齢、勤務関係、身分関係、学歴は認めるが、その余の事実は争う。

第四、被告の抗弁

かりに、被告において本件道路の管理に瑕疵があつたとしても、右訴外人にも前記第三、二、(1)ないし(5)記載のとおり本件事故の発生について過失があるから、損害賠償額の算定につき斟酌すべきである。

第五、抗弁に対する原告らの答弁

否認する。

第六、証拠〔略〕

理由

一、原告らの長男訴外吉井一雄が昭和四二年六月二七日午後一〇時五分ころ、本件道路を自動二輪車を運転して伊勢崎市上泉町方面から美茂呂町方面に向けて南進していたこと、右道路上に直径約六〇センチメートルの土砂のかたまりがあつたこと、右訴外人が右自動二輪車の進行中の事故により翌六月二八日午前九時四〇分同市大手町一八番一〇号伊勢崎福島病院において死亡したことはいずれも当事者間に争いがない。

二、しかして、原告らは、本件事故は右訴外人の運転する自動二輪車が本件道路上にあつたその主張のような土砂に乗り上げ操縦の自由を失つたため惹起されたものである旨主張するので検討するに、〔証拠略〕を総合すると、前記訴外人は昭和四二年六月二七日午後一〇時五分ころ、自動二輪車(スズキセルペツト八〇CC)を運転し、本件道路(幅六メートル、右訴外人の進行方向に向つてやや上り勾配となつている)を南進中、前方を時速約二五ないし三〇キロメートルで約二メートルの間隔をおいて走行していた二台の原動機付自転車を道路右側(西側)部分に進入して追い越したが、その直後道路右側(西側)の端から左側(東側)約二メートルの付近にあつた盛り上つた土砂のかたまり(アスフアルト舗装の上に固着し、土の中に直径五・六センチメートル、直径二・三センチメートルの石が混つた直径約六〇センチメートル、高さは最高の部分で五ないし一〇センチメートルの皿を逆に置いた形をしたかなり硬い土砂のかたまり)に乗り上げ、その衝撃により乗つていた自動二輪車とともに約一メートル先までバウンドして操縦の自由を失い、ブレーキをかけるいとまもなく車体もろとも傾斜して左斜前方に走行し、その途中前記土砂のかたまり部分から左斜前方(ほぼ南方)約二六メートルの地点にある広瀬川に架けられた競運橋の東側親柱付近において、車体から投げ出されて路面に転倒し頭部を強打したうえ、そのまま転んで右親柱に衝突し(自動二輪車は人を乗せないまま同所から約一〇、二メートル南方に走行して転倒した。)、これにより右訴外人は脳挫傷、頭蓋底骨折の傷害を負い、よつて、翌六月二八日午前九時四〇分前記病院において死亡するに至つたことを認めることができ、他に右認定を左右するに足りる十分な証拠はない。

三、そこで、本件事故による右訴外人の死亡が被告の道路管理の瑕疵に基くものかどうかの点について判断する。

まず、本件道路が被告の管理する市道であることは当事者間に争いがない。

そして、〔証拠略〕を総合すると、次の各事実を認めることができる。

(1)  被告は上水道の拡張工事の一環として本件道路の西側に接する土地に第三水源地の設置を計画し、昭和四二年六月初旬ころより訴外佐田建設株式会社に請け負わせて右土地の埋立工事をしていたが、前記認定の土砂のかたまりは右埋立工事に必要な土砂を同所より北方約六〇〇メートルの第一水源地から右土地まで貨物自動車で運搬する際、これからこぼれ落ち、その上を自動車が通るなどして圧縮して固形化し前認定のような形状のかたまりとなつたものであり、なお、右土砂のかたまりの西側には前記土地の埋立工事用の小石の混つた固い土砂が道路の西側路肩にそつて長さ約一〇メートル、幅約八〇センチメートルにわたり(高さは路肩部分において約一〇ないし二〇センチメートル、道路の内側(東側)に向けて低くくなり裾野形になつてそのまま本件道路のアスフアルト部分に接する)、本件道路の非舗装部分にはみ出していたこと

(2)  本件事故の現場は、前橋市から太田市、古河市方面に通ずる県道前橋古河線と伊勢崎市曲輪町所在伊勢崎警察署曲輪町交番前で南北に交わる道路を南方競運橋方向に約一、四キロメートル進んだ地点であり、通常車両の交通量も比較的多いこと

(3)  前記土砂のかたまりは本件事故の発生する七日ないしは一〇日前ころから本件道路上にあつたものであり、自動二輪車ないしは原動機付自転車の運転者は危険を感じこれを避けて走行していたが、一方前記埋立工事については被告の水道局職員が本件事故現場付近に赴いて工事の監督をしていたものの右土砂の存在には気がつかず、本件事故発生により始めてこれを知り、その翌日伊勢崎警察署より事故の再発防止のため取り除くよう注意を受け直ちにこれを除去したこと

(4)  原動機付自転車ないしは自動二輪車は比較的操縦の平衡を失いやすく、しかもこれらの車両が高速で進行した場合には僅かの障害物に衝突しても車体が軽量のため往往にしてバウンドし、そのため操縦の平衡を失つて路面に転倒する等の危険性は容易に考えられるところであり、かかる見地よりすると、前記土砂のかたまりは前認定のとおりの規模、形状、硬度よりして右のような危険の発生する障害物としての性質を客観的に具有していたものといわざるを得ないこと

(5)  本件事故の現場付近は道路の西側路肩部分(前記土砂のかたまり付近より南方約一一メートル余の地点)に外灯(被告が設置し、その管理を伊勢崎市第六行政区(通称美茂呂町)に委託し費用の負担も同区においてなしているもの)があるほかは、他に照明設備がなく、しかも、本件事故当時は右外灯は電球の線が切れて点燈していなかつたものであり、附近の人家等の照明も右現場付近に届くこともなかつたのであるから夜間、薄暗さのため誤つて前記土砂のかたまりに衝突し前記のような危険が発生することがなお一層考えられるところであるが、前認定のとおり本件事故当時被告においてこれを除去することなく、また、他になんら危険の発生を未然に防止するための措置を講じていなかつたこと

以上の事実を認めることができるのであつて、〔証拠略〕中右認定に反する部分は信用することができず、他に右認定を左右するに足りる十分な証拠はない。

ところで、道路管理の瑕疵の有無については、具体的にその道路の予定された性質、状況、交通量の多少、夜間照明設備の有無等を考慮し、その前提のもとに当該障害物等欠陥部分の客観的性質をも検討して右欠陥部分がその道路の交通の安全を阻害するものと一般的に明らかに言えるかどうかを総合判断のうえこれを決すべきところ、これを本件についてみるに、本件道路は前認定のとおりアスフアルト舗装の都市の道路であつて、本件はこれが道路上に放置されたままになつていた前認定のとおりの土砂が問題となつているのであつて、最初から手の入れられていない非舗装の道路の上にある土砂とは自ら異るものであり、しかも前認定のとおりの本件道路の勾配、交通量、本件事故当時における事故現場付近の照明設備の状況および前記土砂のかたまりの具有する交通に対する危険度を総合し、なおその他の前記認定の諸事情を考慮すると、本件事故当時、本件道路上に右土砂のかたまりが放置してあつたことは道路の交通の安全を阻害するものであり道路の通常備えていなければならない安全性を欠いていたものというべく、したがつて、被告には右の点において本件道路の管理に瑕疵があつたものというべきである(被告は速やかに右土砂のかたまりを除去し或いはその他危険の発生を未然に防止する措置をとるべきであつた。)から、本件事故による前記訴外人の死亡は、後記のとおりの同訴外人の過失を考慮してみても、なお、被告の道路管理の瑕疵に基くものといわざるを得ない。

被告は、本件事故による右訴外人の死亡はその運転する自動二輪車が土砂のかたまりに乗りあげたことに基因するものではなく、専ら同訴外人の無謀運転等の原因によるものである旨争うが、後記認定のとおり右訴外人において速度を出しすぎていたことが本件事故の発生に重大に影響したことは窺い知ることが出来るが、これが過失相殺の対象となるは格別、前認定の事実によれば右土砂のかたまりへの乗り上げと本件事故との因果関係を否定する事情とはいい難く、被告が因果関係を否定する事情として挙げる追越違反、通行区分違反、前方注視義務違反(前方注視義務違反が過失相殺の事情となることは後記のとおりである。)はその事情自体からして因果関係を否定し得る性質のものではない。また、被告は右訴外人の運転していた自動二輪車のハンドルは通常のハンドルではなく、いわゆる一文字ハンドルと称する短いハンドルであつて運転の平衡をくずしやすく、これが本件事故発生の因をなした旨争い、〔証拠略〕のうちにはこれにそう供述部分ないしは記載部分があるが、右証人は専門的、技術的な面からその旨供述し、記載したものではなく単なる推測の域を出ない旨、右証言中にも述べているのであるから直ちにこれを採用できず、かえつて証人大和幸雄の証言によれば前記一文字ハンドルは通常各メーカーから市販されており、これによつて運転する場合には体が比較的前方に傾くのでかえつて他のハンドルよりも安定性がよく、ただ高速を出しても安定して危険性がないところから運転者がスピードを出しやすくなるというのであつて、これによればこの点をもつてしても前記因果関係を否定し得るものではない。

さらに、被告は、右訴外人が前記土砂のかたまりに乗り上げてからも自力で約二三・六メートル走行している旨争うが、右走行は前認定のとおり操縦の自由を失い傾斜しながら走行していたものというべきであるから、この一事をもつて前記のような因果関係がないということはできない。

そうすると、結局被告は道路の管理者として、原告らに対し本件事故による損害を賠償する義務があるといわなければならない。

四、そこで進んで、原告らの損害について検討する。

(一)  前記訴外人の受けた損害(逸失利益)と原告らの相続について

1(イ)  右訴外人が死亡当時二〇才七か月の男子であつて、訴外関東ユアサ電池販売株式会社伊勢崎支店の従業員として勤務していたことは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によれば、右訴外人は死亡当時健康であり右訴外会社から給料として月額金二万六、五五〇円、賞与として、夏期分金二万三、〇〇〇円、冬期分金四万二、〇〇〇円、年間合計金三八万一、八〇〇円の収入を得ていたものであることが認められる。

次に、右訴外人の生活費については、右尋問の結果によれば年間を通じて多くてもその年収の五〇パーセントを越えることはなかつたものであることが認められ、右事実よりすると右訴外人の生活費はその年収の五〇パーセントをもつて相当と認める。

そうすると、右訴外人の一か年の純収入額は金一九万九〇〇円となることが計数上明らかであり、厚生省大臣官房統計調査部公表の第一二回生命表によれば二〇才の男子の平均余命は約五〇年であり、右訴外人はその職業、健康状態に照らし、少くとも本件事故が起らなければ原告らの主張するとおり少くとも四三年は稼働可能であつたものと認められるのでホフマン式計算法(単位年間を一年とする複式)によつて右稼働可能期間中の得べかりし利益を計算すると、金四三一万六、三四九円(円未満四捨五入)となることが計数上明らかである。

したがって、右訴外人は本件事故による死亡によつて右金四三一万六、三四九円を喪失しこれと同額の損害を受けたというべきである。

(ロ)  しかして、右訴外人は右のとおりの損害を受けたが、被告は、本件事故発生については右訴外人にも過失があつた旨主張するので検討するに、前記二、三に認定した事実および〔証拠略〕によれば、本件道路付近は比較的交通量も多いところであり、かつ右訴外人の進行方向に向つて上り勾配となつており、そのうえ格別の照明設備もなくかなり暗かつたこと、右訴外人は日頃より通勤、通学の途中自動二輪車で本件道路を走行していたものであるから前記土砂のかたまりの存在も当然知つていたものと考えられること、そしてこれらの事情等を考慮すれば、右訴外人は自動二輪車の運転者としては事故の発生を未然に防止するため前方を注視し、かつ安全な速度で進行すべき注意義務があつたのに、漫然これを怠り、当時訴外人が運転する自動二輪車にその側方を追い越された通行人が身の危険を感じる程のかなりの高速で走行していたことが認められるのであつて、右事実によれば右訴外人の運転する自動二輪車が前記のような土砂のかたまりの上に乗りあげ、前認定のように路上に転倒したことについては、右土砂のかたまりの規模、形状から考えても右自動二輪車の高速ないしは右訴外人の運転態度が重大に影響しているものと考えられるのであり、したがつて、本件事故により右訴外人が死亡したことについては、右訴外人自身にも相当の過失があつたものといわなければならない。

被告が過失相殺の具体的事情として主張するその余の事実のうち、右自動二輪車のハンドルの点、乗りあげ後の自力走行の点はいずれも前記三に判示したと同様の理由により、その他の点はその主張自体からして本件事故の態様に照らし、それぞれ本件事故についての右訴外人の過失とはいえない。

そして、右認定のとおりの右訴外人自身の過失を考慮すれば、本件事故の発生についてはほぼ右訴外人が八、被告の道路管理の瑕疵が二の原因力を有していたと解するのが相当であるから、右訴外人が被告に有する損害賠償請求権の金額は前記金四三一万六、三四九円のほぼ一〇分の二にあたる金八六万円をもつて相当と認める。

2  原告らの相続

原告らが右訴外人の両親であることは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によれば右訴外人には未だ妻子がなかつたものであるから、原告らは右訴外人が被告に対して有していた前記金八六万円の損害賠償請求権をその死亡により共同して相続し、それぞれその二分の一たる金四三万円の損害賠償請求権を被告に対し有するに至ったものというべきである。

(二)  原告らの受けた損害(慰藉料)について

〔証拠略〕によれば、前記訴外人は原告らの長男であり、中学卒業後は前記会社に勤務するかたわら群馬県立佐波農業高等学校定時制に通学して学業に励んでいたものであり、本件事故当時原告の子らのうちでは唯一の男子でもあつたことから、原告らはその将来に大きな期待を寄せていたのに、本件事故によりこれを失つたものであり、原告らの受けた精神的苦痛は大なるものがあつたこと、一方被告は本件事故直後被告水道課長らが原告ら方を訪問して弔慰の意を表明したが、伊勢崎警察署から本件事故は右訴外人の自損行為である旨の報告を受けたことから、慣例にしたがって見舞金は出さない旨の方針を決定し、ただ市長交際費中から金一、〇〇〇円が支出され、これを香典として原告らに提供したに過ぎないことが認められ、これらの事実に前認定の本件道路の管理の瑕疵の態様、特に右訴外人の過失等諸般の事情を考慮すれば、前記原告らの精神的苦痛に対する慰藉料の額は原告らそれぞれ金二〇万円あてをもって相当と認める。

五、以上のとおりであるから、被告は原告吉井友治に対し、前記得べかりし利益の損害賠償請求権の相続分金四三万円と慰藉料金二〇万円の合計金六三万円、原告吉井まきに対し、右同趣旨の合計金六三万円およびこれに対する損害発生の日である昭和四二年六月二八日から(原告らは本件事故発生の日である同月二七日から遅延損害金を請求しているが、不法行為による損害賠償債務は損害の発生と同時に遅滞に陥るものであり、本件各損害はその性質上発生の日はいずれも前記訴外人が死亡した同月二八日というべきである。)支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

よつて、原告らの本件請求は右の限度で正当であるから認容しその余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条第一項本文を各適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 松村利教)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例